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【書評】管理ゼロで成果はあがる

「見直す・なくす・やめる」で組織を変えよう

· 書評

【書評】管理ゼロで成果はあがる

「見直す・なくす・やめる」で組織を変えよう

私自身、ずっと「新しい働き方」と呼ばれる何かを模索してきた人間だ。会社と心中するくらい勢いのハードワーカーだった私が、東日本大震災をきっかけに、世の中には多様な働き方があることを知った。そこから自分自身も、プロボノ、パラレルキャリア、副業、そして独立と、自分の思想に合わせて働き方を変えてきた。

そういう、一応「新しい働き方トレンド」なるものに敏感な人間として注目している企業がいくつかあり、そのひとつが「ソニックガーデン」だった。

「上司なし・決裁なし」
「経費は承認なく使える」
「休暇は取り放題」
「給与は一律,賞与は山分け,評価制度なし」
「売上目標やノルマはなし」
「働く時間も場所も縛りなし」
「副業OK」

…それでも2011年の創業以来増収を重ねているという。

しかも、その働き方と成果が評価されて、2018年には「働きがいのある会社ランキング」(意識調査機関 Great Place to Work 実施)の小規模部門で5位入賞、「第3回ホワイト企業アワード」(日本次世代企業普及機構選出)でもイクボス部門に入賞しているというんだからすごい。

社員は現在15の都道府県にまたいでいて、スノボが好きで長野に移住した人もいれば、オーストラリアをクルマで旅しながら正社員として活躍している人もいるという。でも、実際にリモートワーク中の社員さんとお話させてもらったけど、チームとしての一体感がすごい。あと、みんなソニックガーデンが大好きなんだろうなってオーラがすごい。

こだわりは「再現性」だと思う。

代表の倉貫さんは、これ以前にも数冊本を出版されている。それらと、今回の本管理ゼロで成果はあがる 「見直す・なくす・やめる」で組織を変えよう(1月24日発売。現在Kindle版のみ先行発売中)の違いは、「再現性にこだわっている」ことだと思う。徹底的に自社の「働き方メソッド」を整理・開示して、働き方を改善したいと思う読者が、本書を読むことで自社の環境改善に取り組めるようにしてくれている。

読んでその気になって、でもいざ手を動かそうとしても手段がわからない本は、働き方系では特に多いと思っている。でも、「そうはさせないぞ!」という意気込みが伝わるのが、本書の一番の特徴であり、素晴らしいところだと思う。

生産的に働く→自律的に働く→独創的に働く

本書のど真ん中は、ソニックガーデンがこれまで経てきた働き方改革を、「生産的に働く」「自律的に働く」「独創的に働く」の3つのステップに体系化して、それぞれのステージに移行するために必要なTipsを細かく教えてくれること。その結果、「組織として成果を出すこと」と「個人が楽しく働くこと」が両立できる組織が生まれる。

教育をなくす ー自分の頭で考える社員の育て方ー

個人的に、第2章に含まれている「教育をなくす ー自分の頭で考える社員の育て方」のパートは食い入るように読んでしまった。独立後も前職の後輩たちとチームを組んでいるというのもあり、また、かわいらしい大学生の友人たちも多いので、「教育」というテーマに最近関心が高い。

今は、会社の寿命よりも人が働く期間のほうが長くなるような時代です。そんな時代には、「会社がなくなったら困る社員がいるから会社と社員を守る」というよりも、「会社がなくなっても困らないだけの実力をつけた社員に育てる」ことこそがリーダーの本当の責任だと私は考えています。社員1人1人が会社に依存しないで、自立していけるくらいになっているほうが会社全体のパフォーマンスは高くなるし、そんな自立できるような人材でもいっしょにいたいと思ってもらえる会社を作るほうが健全でしょう。

倉貫 義人. 管理ゼロで成果はあがる~「見直す・なくす・やめる」で組織を変えよう (Kindle の位置No.1829-1833). 株式会社技術評論社. Kindle 版.

私は、子育てについて実は全く同じことを考えている。人はいつか死ぬし、明日死んでもおかしくない。親は確率論でいうと、子供より早く死ぬ。だから最高の教育は、1日も早く、「親が死んでもサバイブできる子に育てること」だと思っている。なので、これを読んだ時に、「ああ、会社もそうだよな」と思った。

で、そんな社員を生み出すためにどうするかというと、「人を育てる、なんて考えずに、育つ環境を与える」と言い、その方法をいくつか書籍内で示してくれている。

「ホウレンソウ」から「ザッソウ」へ

もうひとつ、本書で感激したのが、「ホウレンソウ」から「ザッソウ」へ、というコミュニケーションの転換。

報告・連絡よりも私たちが重視しているのは「ザッソウ」、つまり雑談と相談です。報告と連絡にかけていた時間を相談にかけると、仕事がよりスムーズに進むようになります。お互いの時間をとって話しあうことで、抱えている問題の解決に至るからです。

倉貫 義人. 管理ゼロで成果はあがる~「見直す・なくす・やめる」で組織を変えよう (Kindle の位置No.896-899). 株式会社技術評論社. Kindle 版.

これについては倉貫さんのブログにもエントリーがありましたので、ご関心があればどうぞ。これ、次のトレンドになるんじゃないかな、と個人的に感じました。

ちなみに、思い出してください。ソニックガーデンってオフィスのないリモートワーク集団なわけですよ。どうやって「ザッソウ」を成立させているのか、不思議になりませんか? そのへんも、本書には細かく書かれています。現在リモートワークじゃない人でも、リモートワークの人でも、役に立つような内容になっています。

自由であることが、最も生産性をあげる姿

私自身の話ですが、生きる上で最も大切な言葉を「自由」としています。で、ソニックガーデンは、まさに個人の自由を大切にしながら、組織としても成果が出ている。一応16年くらいサラリーマンをやってきましたが、これって、今までは一部のスーパープレイヤーとか、意識高い系の人しか実現できなかったことだと思うんですよ。ハードワーカーだけどパラレルもやっていてやりがいを見出していた自分とか。でも、これって人に再現してもらうのは難しい。「ストレス耐性つけて」という、意味をなさないアドバイスで終わっちゃう。

でも、ソニックガーデンはそうではない。ものすごく人の行動とか、価値基準とか、心の動きとか、そういうものを汲み取った上で組織を作っている。さらに、それをちゃんと言語化して整理しているから再現性もある。

そういう、実際に成功している企業のTipsが学べる本書は、同じような働き方系の本でも、ものすごく価値がある1冊だなと、心から思いました。

タイトル:管理ゼロで成果はあがる 「見直す・なくす・やめる」で組織を変えよう

著 者 :倉貫 義人

出版社 :技術評論社

発売日 :2019年1月24日(Kindle版のみ先行発売中)

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